批評における還元について

 現代文学批評において「作者の意図」を考えるような作者還元主義は許されない。しかし、文学における物語内容をある現代思想に「還元する」テクスト論的批評は、これと同じく唾棄すべき「還元主義」ではないのか。結論を先に言えば、フランス現代思想を援用した批評を作者還元主義と同一視すべきではないだろう。

 この場合、作者還元主義とテクスト論的批評における最大の差異は、還元対象である。それは、前者においては作者であり、後者においては現代思想であるわけだが、前者のそれは実は幻想であって、読者が読書行為によって事後的に作り出す架空の創造主体に過ぎない。すなわち、作者還元主義においては、読者による仮構に読みを還元させるわけである。自分が作った読みを、自分が作った幻想に還元するということだ。作者還元主義者は、自分の読みの正当性を自分の幻想によって保証しようとするのである。換言すれば、作者還元主義者は「作者の意図」を考えるが、その「作者の意図」における「作者」が彼自身が生み出したものだと気づかないのである。

 それに対して、テクスト論的批評はどうか。テクスト論的批評の還元対象であるフランス現代思想は、批評者による幻想ではない。批評者は固定的な現代思想に対して、物語内容を変形させることで、それと同一化させようとする。これは、精神分析批評などの構造主義を援用する批評に当てはまるだろう。また、ポスト構造主義と呼ばれる思想を援用する批評においては、物語内容を思想に「還元」することからも逃れ得る。